医療的ケア児支援法、施行1年の現状と課題/家族会の団体が主催する全国フォーラムから

医療的ケア児支援法、施行1年の現状と課題/家族会の団体が主催する全国フォーラムから

 生きるために、たんの吸引や人工呼吸器などが欠かせない子どもとその家族を支える「医療的ケア児支援法」が、先月18日で施行1年を迎えた。支援の現状や今後の課題を話し合うため、全国の家族会でつくる団体「全国医療的ケアライン」(愛称・アイライン)が同日、都内で開催した全国フォーラムの模様を紹介する。

■通学時の保護者の付き添い解消へ看護師の配置さらに

 アイラインは今年3月、医療的ケアが必要な当事者と家族らをつなぐネットワークとして発足。47都道府県の家族会が参加し、約2600人が活動している。今回のフォーラムには都内の会場のほか、オンラインで全国の会員らが参加した。

 医療的ケア児を巡っては、保育施設や学校に通う際に保護者が付き添いを求められるケースが少なくないため、家族の負担軽減は待ったなしだ。さらなる支援環境の改善は不可欠であり、宮副和歩代表は冒頭のあいさつで「法施行1年を迎え、どんな課題があり、解決のために何が必要なのかを考え、思いを社会に発信したい」と訴えた。

 第1部では未就学期、学齢期、高校卒業後の各世代における当事者と家族の生活実態や課題について、3人の親が報告。就学しても自家用車による送迎や校内の付き添いが必須で、日々3、4時間の睡眠時間で奮闘してきた経験談など、途方もない苦労の数々が紹介された。思いを共有する家族らのまなざしは真剣そのもので、子どもたちの未来を案じ、大きくうなずく姿が切実さを浮き彫りにした。

 長崎県諫早市の谷口瑠蔵さんは、「胃ろう」が必要な6歳の長男が通う特別支援学校が近くになかったため、購入したマンションを手放して隣町へ引っ越さざるを得なかった経験を語り、「障がいや医療的ケアを理由に、住み慣れた街を離れなくていい社会になってほしい」と念願した。

 この後、「子の自立と親の自立」と題した母親座談会を開催。北海道札幌市に住む運上佳江さん、東京都中野区の福満美穂子さんが登壇し、それぞれの立場から苦悩や課題などを語った上で「お母さんは頑張り過ぎなくていい。自分の人生も諦めないということが私たちのキーワードだ」と強調した【要旨別掲】。ここでは、家族以外に頼れるサービスが地域ごとに必要であるものの、量も質も足りてなく、その担い手育成が課題であることも共有された。

■地域間格差の是正が急務

 第2部では、国会議員と文部科学省など関係府省担当者による「医療的ケア児の通学と親の付き添いは、今」と題したシンポジウムを開催。浮かび上がったのは、地域間での支援格差解消に向けた国のリーダーシップの必要性だ。

 支援法では、医療的ケア児が学校で保護者の付き添いがなくても適切なケアの支援を受けられるよう看護師らの配置を求め、国も保護者の付き添いを求める際は「真に必要と考えられる場合に限るよう努めるべき」として、付き添わなくていい環境を整えるべきだとの方針を示している。

 一方、議論の中では、ある母親が「人工呼吸器が必要だと、極端に学校での受け入れのハードルが高くなる。校内やスクールバスで看護師が人工呼吸器を扱える体制を整えてほしい」と窮状を吐露。アイラインが独自に各都道府県の医療的ケアの実施方針を示すガイドライン(マニュアル、実施要綱含む)を調査した結果も発表され、「学校内で看護師による人工呼吸器の管理が可能か」について、全都道府県中41%に及ぶ19団体が可能で、「通学用車両内」で見ると、わずか6%の3団体に限られた【グラフ参照】。

 こうした実態について、同シンポに登壇した、障がいのある娘を持つ公明党の山本博司参院議員は、地域間格差は大きな課題であるとして、支援法の趣旨が各地で具体化されるよう推進していく決意を表明。その上で「予算を増額して地方負担を少なくしなければならない。学校での看護師配置予算も、今年度が26億円で、来年度は約41億円を要求していて国としてしっかり予算を取っていきたい。県や市町村が支援を進めていくためにも、公明党の3000人の議員ネットワークで全力で対応していく」と力説した。

■支援法の概要

 支援法は、超党派の議員立法として昨年6月に成立。医療的ケア児の居住地域に関係なく、等しく適切な支援をすることを国や自治体の責務と明記。都道府県に「支援センター」を整備するよう求めている。

 また、医療的ケア児が教育を受けられるよう最大限配慮することを基本理念とし、学校・保育所に看護師らを置くことを自治体の責務と定めた。高校を卒業して「児」から「者」になっても、適切な医療・福祉サービスを受けながら生活できるよう配慮することも規定されている。

 在宅生活の19歳以下の医療的ケア児は約2万人に上るとされている。
 
2022年10月12日 公明新聞4面