参議院 厚生労働委員会 第23号

○山本博司君 公明党の山本博司でございます。また、発議者の皆様、本当に御苦労さまでございます。
 臓器移植法は施行から十一年が経過したにもかかわらず、脳死下における臓器移植は八十一例にとどまっているわけでございます。進まない現状は改善すべきであり、立法府の不作為と言われないためにも今国会で結論を出さなくてはいけないと考えるわけでございます。
 いわゆるA案は、脳死を一律に人の死という考え方に立っておりますけれども、この参議院でも、二十一名の参考人の方々、様々お話、意見を聴かさせていただきましたけれども、この部分に関しましてはいまだ国民的な合意になっているとは言えないのではないかと考えるわけでございます。また、児童の脳死判定の基準や臓器を提供した側への配慮を十分に考えなくてはならない点など、これから検討すべき課題が数多くあると考えるわけでございます。こうした点に関しまして、提案者の方々の見解を確認を申し上げたいと思います。
 先ほども南野議員からも指摘されました部分でございますけれども、現行法、参議院の修正によりまして、臓器を提供する場合に限り人の死として扱う規定でございます。しかし、この規定を削除することで、臓器提供の場合以外にも波及して治療が打ち切られるのではないかとか、終末期医療にも影響が出るのではないか、様々な懸念を持っている方もたくさんいるわけでございます。
 この審議のさなか、例えばこの部分に関しましてA案提出者のぶれがあるのではないかとも言われているわけでございます。
 例えば、この法案審議前に、河野太郎氏のホームページでは、脳死は心臓死と同様に人の死だということをはっきりとさせるべきでないか、こういう御意見がございましたけれども、法案審議中は、脳死は人の死というのは臓器移植法に関して限定的なものを考えている、冨岡氏の発言とか、この今回の法案趣旨説明でも、脳死が人の死であるのは、本案の場合も現行法と同じく臓器移植に関する場合だけに適用されるのであり、一般の医療現場で一律に脳死を人の死にするのではありませんと、こう答えられているわけでございます。
 それであれば、この六条二項の臓器移植の場合に限るという部分を削除せずに現行法のままでもよいのではないかと、こう思うわけでございますけれども、この点に関しましての提案者の見解をお聞きをしたいと思います。
○衆議院議員(冨岡勉君) 委員の質問にお答えします。
 先ほどからこの問題も出てきてまいりましたけれど、我々は脳死臨調の最終答申においては、脳死は人の死であることについておおむね社会的に容認されているものと考えております。また、近年のアンケート調査においても、多くの方が脳死を人の死として認めてもよいとする結果が出ております。このような背景から、脳死は人の死であるという考え方を前提としてA案を提案、提出したところであります。
 提出者の意思としては、脳死した者の身体の定義について、先ほどから触れておりますが、このような考え方にふさわしい、よりふさわしい表現となるよう、その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることになる者であっての文言を削除したところであります。
○山本博司君 今回の参考人の方々の意見の中にも大変この部分をいろいろ苦慮される部分がございました。例えば、柳田参考人は、こうした臓器提供を望む人の場合、脳死を人の死とする現行法というのは日本人の心情と日本の死の文化の特質をうまく取り入れたものとして今後も大事にしていくべきであるという、そういう社会的な部分、また哲学的な部分も含めてこうした意見もあるわけでございまして、まだまだ国民的な合意に至っていないのではないかという気がするわけでございます。
 この部分はこれくらいにしまして、その後の部分に関してお聞きをしたいと思います。児童の脳死判定の部分でございます。これは両案の方にお聞きをしたいと思います。
 A案では、現行法で禁じております十五歳未満の児童からの臓器提供も可能となっているわけでございますけれども、児童の脳死判定につきましての規定が、法律上、条文の中では明記をされておりません。児童には脳死と診断されても心臓が動き続ける、今日の午前中でもいろんな議論がございました、長期脳死と呼ばれる状態がまれに起きる場合もある部分がございます。また、様々な方々が、この児童の脳死判定の難しさは専門家の間でも意見が分かれております。
 そうした部分で、E案の提案者、子どもの脳死臨調を設置すべきということに関しましては大変趣旨は理解できるわけでございます。ただ、単なる先送りになっても児童の臓器移植が実現しないという懸念もあるわけでございます。
 こうした状況を考慮しますと、児童の脳死判定につきまして、成人とは異なる児童の特性に十分配慮をした厳格な基準が検討されるよう法文上明記して、臓器移植の道を開くべきと考えますけれども、両案の提案者にこの児童の脳死判定の基準に関しまして御見解をお聞きしたいと思います。
○衆議院議員(冨岡勉君) 平成十二年に旧厚生省の研究班によって報告された小児、六歳未満ですが、の脳死判定基準によると、出生予定日から換算して十二週目未満の小児を除いて脳死判定をすることが可能であるとしています。その際、二回行われる脳死判定の間隔を二十四時間以上とすることなどが決められております。
 上記の研究班が作成した基準を参考にしつつ、諸外国における小児の脳死判定基準や最新の医学的知見も踏まえた上で、六歳未満の者についても脳死判定基準が早期に定められることを期待しております。
○委員以外の議員(岡崎トミ子君) E案でございますけれども、この法律案は、子供の脳死判定基準について、専門家の間でも、今、山本議員がおっしゃいましたように、意見が大きく異なっていること、そして国民の間にも大きな懸念があるということ、このことを踏まえて、これらの問題について検討を行っていくということが趣旨でございます。臨時子ども脳死・臓器移植調査会の専門的な調査審議を通じたこの検討は、子どもに係る脳死の臓器移植に関する制度、これを設けるかどうかということも含めて行っていこうとしております。
 したがいまして、臨時子ども脳死・臓器移植調査会の審議の結果をまだ見ていない、こういう段階におきましては、子供の脳死判定についてどのような基準を設けるべきか、今述べるということについては適当ではないというふうに思っております。
○山本博司君 大事な部分でございますので、このことも含めてよろしくお願いを申し上げたいと思います。
 続きまして、ドナー家族のことに関しましてお聞きをしたいと思います。A案の提案者にお聞きしたいと思います。
 多くの家族といいますのは、肉親の突然の死に直面をして、強い悲しみに暮れる中で臓器の提供に同意することになるわけでございます。脳死を受け入れられないままに同意する場合もあり、残された時間を有意義に過ごすためのみとりの時間というのが必要ではないかと、参考人の方々からの意見もあったわけでございます。
 さらに、検証会議の下に設置をされましたドナー家族の心情把握等に関する作業班の報告によりますと、臓器提供を誇りに思って生きる支えにしている家族がいる一方で、臓器提供に応じたことを悩み続けている家族もいるとのことでございました。また、本人が拒否したことが提供後に分かった場合、承諾した家族が悩みを深める懸念があるなど、事後の精神的ケアや支援策を検討すべきであると、こういう参考人からの意見もございました。
 こうしたドナー家族の心情に対しまして十分な配慮をすることが大変重要であると考えるわけでございます。法律の運用の中でもこうした点を考慮すべきと思いますけれども、A案の提案者にお伺いをしたいと思います。
○衆議院議員(冨岡勉君) 委員がおっしゃるとおりでございます。
 したがって、私たちは、ドナー家族の心情に十分配慮するということで、臓器の提供に際しては、亡くなった人の体にメスが入れられることになり、遺族の心情は本当に察して余りあるものがあると思います。特に、臓器提供が行われる場合、不慮の死であることが多く、突然の悲しみの中、死を受け入れられるというのも、本当にそれは大変なことじゃないかと思います。またさらに、その上で臓器の提供を決断される御家族は、家族を亡くすという不幸に直面しながらも、大変な作業が待っているわけでございます。このため、このような家族の心のケアについては万全を期すべきだというふうに私たちも考えております。
 諸外国におきましては、グリーフケアという、ある意味ではシステマチックな制度もございます。我々も、当然そういうシステムを導入するようなことを考えていきたいと思っております。
○山本博司君 続きまして、やはりA案の方にお聞きをしたいと思います。
 A案では、本人の書面による意思の表明を前提とする現行法の枠組みを変更して、本人の意思表示が不明な場合、家族の同意で臓器提供が可能となってくるわけでございます。これによってドナーカードを必要としないとする意見もあるわけでございまして、そうではなくて、どのような改正をするとしても、臓器移植の正しい理解を求めていくにはドナーカードの普及が欠かせないわけでございます。学校や社会の中でも、あらゆる機会を通じて普及啓発に努めるべきでございます。
 また、臓器を提供したいという本人の意思が十分に生かされるよう、健康保険証や運転免許証などに臓器提供の意思を記載できるようにする、ドナーカードのデザインを多様化するなど、これまで以上に臓器移植に対する国民の意識を高めることができるように工夫をしなくてはなりません。
 そこで、臓器提供の機会を拡大させるためにドナーカードの普及策についてどのように考えられるのか、A案の提案者にお聞きをしたいと思います。
○衆議院議員(冨岡勉君) 今までもいろいろな普及策が講じられてきておりますけれども、我々としては、国民があらゆる機会を通じて移植医療に対する理解を深めることができるよう、現在のドナーカードに加えて、多くの国民が所有する運転免許証あるいは医療保険の被保険者証、そういうところに臓器移植に関する意思表示を記載する欄を設けることを提案させていただいているところであります。
 現在においても、免許証に意思表示のシールを張ることができるなど、一定の措置も講じられているところでありますけれども、いまだ国民の間に浸透していないこともあり、今後は広報活動等を十分に行っていく必要があると考えております。
 これは、厚生労働省もいろいろな協力を依頼し、それを志向していきたいということで今検討を既に始めているところであります。
○山本博司君 最後になりますけれども、やはりA案の提案者にお聞きをしたいと思います。
 我が国の脳死における臓器移植、欧米諸国と比較をしても非常に限られておるわけでございまして、また、今日の午前中でもお話ございました、臓器提供を増大させるには、多額な医療費が掛かる現状を改める必要があると考えるわけでございます。特に、児童への臓器移植を求めるために数千万円から一億円を超す募金を集めなくてはならないということは、海外から見れば、臓器を金で買い取るような印象を持たれる場合もあるわけでございまして、改善が必要でございます。
 また、イギリスやドイツなどの受入れ中止などが影響をして、現在この渡航移植の大半はアメリカで行われておりますけれども、アメリカでは最近、自国の待機患者の感情に配慮をして、外国の移植希望者の手術費用を一気に高額化させる傾向もあるわけでございます。
 さらに、国際移植学会が昨年五月、移植用臓器の自国内での確保の方針を打ち出したほか、WHOも来春の総会で同様の趣旨の指針を決めていると見られておりまして、こうした国際的な流れに対しましても、我が国の体制整備を進めなくてはならないと思います。
 今後、自国内の臓器移植が増加をすることを予想すれば、保険適用の在り方など体制の整備も含めまして、臓器移植に関する医療費の負担軽減、この点に関しましても図る必要があると思います。A案提案者にお聞きをしたいと思います。
○衆議院議員(冨岡勉君) 確かに、この医療費の削減というのはもう大変な問題でございます。したがいまして、国内で臓器移植を受ける場合は、平成十八年四月一日から小腸移植を除く臓器移植に保険が適用されているところは御存じのとおりでございます。また、一月当たりの自己負担が高額になる場合には高額療養費制度が適用され、その上限が抑えられていることとなっております。
 なお、保険適用がない移植医療については、治療実績や保険適用のニーズ等を踏まえつつ、医療保険制度全体の中で検討されるべきではないかというふうに私たちは考えております。
○山本博司君 ありがとうございました。
 以上で質問を終わりたいと思います。ありがとうございました。